干し芋あれこれ

「干し芋の正式名称は?」

全国の干し芋の生産量約90%が茨城県産ですが、干し芋の発祥地は、静岡県です。
明治時代の末期に静岡から、茨城県の旧那珂湊市に伝わり現在に至っているのですが、その呼び名は、静岡と茨城で違いがあります。
静岡では、一般的には、"芋切り干し"または、"芋切り"と呼ばれていますが、タツマが親しい静岡の生産者農家は、"ほし"と呼んでいます。
茨城の生産者農家は"乾燥芋"と言いますが、干し芋加工中は"さつま"で通用します。
このときは、原料のさつま芋は"生さつま"と言います。
ですから、"干し芋""ほしいも"は全国共通語といったところでしょうか。

いきなりですが、ここでクイズです。
問題:茨城県のひたちなか市で毎年開催される"全国勝田マラソン"の参加者への参加賞に、干し芋が贈られるのが慣例なのですが、その干し芋の名前は何でしょうか?
正解は、一番下です。↓↓↓

「鳥はグルメ」

干し芋は天日干しでつくられるために、太陽の恵みを一杯にもらっています。
ということは、当然、屋外に干されます。
野外で少なくとも、一週間並べておくことになると、色々な障害が待ち構えています。
雨風はもちろんですが、最も注意をしなければならないのは、"鳥"です。干し芋の天敵は鳥なのです。
鳥は見境無く干し芋をえさにするわけではありません。
平干し芋の場合、蒸してから4〜5日ぐらいが干し芋として甘さが十分出てきて、 しかもまだ固すぎない時です。
鳥にとってちょうど良い乾き具合になります。鳥はこのときを狙ってきます。
鳥はその中からちょうど食べ頃の、しかも1番美味しそうな干し芋の真中だけを食べます。
ですから、鳥が選んだ干し芋は、まず間違いなく美味しいと言う事になります。

「さつま芋は、寒がり」

秋に収穫された干し芋の原料のさつま芋は、冬に干し芋に加工されるまで、大切に保管されるのですが、この保管が一苦労なのです。
なぜならさつま芋は寒がりだからです。 摂氏5℃以下になると、危険信号。0℃以下では、一晩で"寒さ腐り"になってしまいます
タツマの主要産地の、茨城県勝田地方は、日本におけるさつま芋栽培の北限地です。
栽培においても、保管においてもさつま芋にとっては厳しい気候です。
ですから、秋の収穫から、冬の加工の間中ずっと、さつま芋が寒さに当たらないように、大事に保管されています。

余談ですが、寒さに対しての強さ・弱さは、さつま芋の品種によって異なります。
一般的に、干し芋用ではない紅あずまや金時芋よりも、干し芋用の品種の方が寒さに強い傾向があります。
タツマ干し芋の主要4品種では、人参芋・いずみが寒さに弱く、続いて玉乙女です。
玉豊は比較的寒さに強い品種です。
茨城産の干し芋のシェアは圧倒的に玉豊が多いのですが、この特性もその理由のひとつです。

「干し芋農家は朝型か?それとも夜型か?」

干し芋は一年の中でも一番寒い時季に生産されます。
この時季は、一番昼が短い時季でもあります。
ご存知とは思いますが、干し芋は原料のさつま芋を蒸して、皮をむいてスライスして天日干しされます。
天日乾燥で約一週間かかるので、原料のさつま芋を蒸かしたその日から、少しでも長く日にあてたいので、日の出から逆算して、蒸かしをはじめます。
干し芋は小さい原料芋で1時間30分くらい、大きい原料芋ですと2時間30分くらい蒸かすのに時間がかかります。
そこから、皮むき等があるので、朝3時起きの農家さんもめずらしくはありません。
もっと早起きの農家さんですと、朝?の1時起きの農家さんもいます。

原料のさつま芋を蒸かす熱源は、今はボイラーの蒸気が主流ですが、昔は、薪に火を焚き付け、釜の水を沸騰させて蒸気をつくっていました。
ボイラーですと、スイッチひとつで、すぐに蒸気がでますが、薪で蒸かす場合は、そういうわけには行きません。
原料芋を蒸かす時間に水が温められて蒸気になるまでの時間がプラスになります。
ですからボイラーに比べて1時間くらい余分に時間がかかります。
朝の一時起きはあたりまえだったようです。
今でも薪で蒸かす少数の農家さんや、昔ながらの良い意味で頑固な農家さんは、朝?の一時から干し芋づくりをしています。(夜の7時には寝ているそうです)

「干し芋とカメレオンの相関関係」

丸干し芋は、小さめのさつま芋を、丸ごとそのまま干し上げるため、干し芋になってもさつま芋のかたちが、そのまま残っていますが、平干し芋や角切り芋は、元のさつま芋のかたちではなくなってしまいます。
そして、3種類とも変化するのが、"色"です。
玉豊の場合、蒸して皮をむき、スライスして干したばかりの時は灰色です。
干し上がっていくうちに、だんだんと綺麗な飴色に変わっていきます。

そして、干し上がりたての時は、黄金色に輝いています。
その後、少しずつ黒くなってゆくのですが、ただ黒くなるのではなく、黒光りしてゆきます。
最後には糖分が白い粉となって表面に浮いてきて、全体が真っ白になります。
ちなみに他の干し芋の干し上がりの時の色は、 いずみは、玉豊の飴色を濃くした黄色。玉乙女は、オレンジ色。人参芋は、紅色に近い鮮やかな赤になります。
以上のように、干し芋の色は、カメレオンのように七変化します。

クイズの答え
問題:全国勝田マラソンの参加賞の干し芋の名前は?
答えは"完走いも"です。
"乾燥芋"が一番おいしい時季に毎年開催されます