月別記事

ブログ 今日のいもたつ

SPAC演劇「THE BEE」演出 野田秀樹

120623blogy.jpg

諍いは簡単に始まりますが、終らせることは困難です。
なぜなら、諍いはそれ自身が巨大化し、悪が成長し、そこにとりつく者、物が現れるから。
そんな演劇でした。

主人公井戸は、妻子を救うことが全てだった。
ところがいつの間にか、本当にいつの間にか、
終わりがない諍いになり、それは次へ引き継がれていく争いまでになります。
その争いは、多くの商人たちの格好の餌(ひとつの国が存在するための餌食)にまでされてしまうことを、
ラストには、匂わせるほどに成長してしまいます。

主人公は妻子を救うために、仕方がなく、
最もスピード解決と高い効果を狙って、目には目をの暴力という手段を使います。
そこには大儀名文がありましたし、純粋でした。
ただほんの少しですが、暴力で気を晴らす悪魔の気持ちが「0」ではありませんでした。
その「0」でないところを、悪魔がいるとしたら、悪魔は見逃しません。
そして転げ落ちるように展開します。

主人公の大義名分の『妻子を救う』は、妻子の体を引き裂いても、
己の欲望を満たすためのもの、引き返せない言い訳にすりかわっていきます。
被害者だった主人公が加害者になって、新たに現れた人質の女・子供は、
強制労働を課せられ、体を犯され、体を切り刻まれていくのですが、
心は加害者と同体化していきます。
人の弱さ、愚かさ、であり優しい自分を見つけないと生きられなさであり、
環境に順応する生きる性です。

そして、この犯罪を収める役の警察は、
主人公と争いあうもう一人の男の橋渡し役に変わります。
争うことが目的になった二人にとっての、
必要悪の商人となり、この商人も二人が争いを続けてくれないと困る一人になります。

争いは、それによりそこに恩恵がもたらされるようになり、
それがある限り、ラストに蜂が群がるように、人が群がります。

終わるときは回りに恩恵がもたらせられなくなった時です。
けれど、諍いにかかわった者たち同士の悪意は、
永遠に残り続きます。
そして、次にまた恩恵がもたらせられるとしたら、
爆発する火種としてくすぶります。


演劇は4人劇でした。
冒頭からスピーディーな展開と意外で鮮やかな舞台設営で、
あっという間に観客を引き込み、
前提状況を説明し、笑いをとり、
2幕が本番という構成です。
そこからはシリアスに進みます。

1シーン1シーンに目が離せない濃い内容です。
素晴らしい演劇でした。

【いもたつLife】

日時: 2012年06月23日 08:45