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ブログ 今日のいもたつ

東京マダムと大阪夫人 1953日 川島雄三

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時代観がしっかり確かめられて、でも普遍的な人間模様を映す傑作コメディです。
川島雄三監督らしくかなりシニカルに風刺も込められていますし、それが良いエッセンスになっています。
脚本も良くて、無駄がない、リズムも良いし、テンポ良く笑いが起こります。「幕末太陽傳」なみの完成度です。
その笑いも他愛のないことから、人間の根源に及ぶのものまであります。
そしてこの作品は悪人がでません。上辺の嘘や野次馬な嫌らしさはありますが、善人な庶民の物語です。
私的には人の嫌な部分を見せる「しとやかな獣」に共感していますが、こちらの描き方も共感できるし、川島監督の底力も感じます。
キャストも魅力があります。
庶民の物語なのですが、主人公の社宅夫婦の奥さんはどちらも名家の出身というところが粋で、物語に奥行きと夢を与えます。

高度成長期の一流企業のサラリーマンの暮らしぶりを中心に物語は進みます。
将来を期待される、伊東夫婦と西川夫婦は社宅の隣同士です。
この社宅は当時のサラリーマン家庭の縮図で、奥さん同士の見得の張り合いがあったり、嫉妬があったりといった当時の日常をしっかりと土台にしています。
社宅の名前は「あひるヶ丘」で実際にアヒルが社宅の敷地内にウロウロしています。このガーガー言うアヒル達は社宅内の奥さん連中そのもので、この演出は秀逸です。ぜひ観て欲しいとしか言い現せません。

会社内ではもちろん上手く切り抜けるサラリーマンもいれば脱落者も出てきます。社宅の付き合いは、会社の序列がそのまま社宅内の奥さんの序列になっているという、当時だったら誰もが頷く実態を織り込みながら、庶民感覚とは違う物語が挿入されていきます。

伊東の奥さんの美枝子(月丘夢路、夫は三橋達也)は東京の老舗の傘屋の出で、父親からの政略結婚の押し付けが嫌で飛び出しました。その妹康子(芦川いづみ)も同じ境遇で姉の下に逃げてきます。
西川の奥さんの房子(水原真知子、夫は大阪志郎)は大阪の昆布の佃煮問屋の出で、8人兄弟の末っ子八郎(高橋貞二)が仕事で東京に出てきます。この八郎がモテる役プラス気風が良いプラス飛行機乗りという設定で、サラリーマン社会とは違う世界の男です。付け加えますが、伊東も西川も真面目で有能なサラリーマンです。
そしてもうひとりヒロイン百々子(北原三枝)がいます。あひるヶ丘の会社の専務の娘で、明るくて屈託がない性格で康子と対照的です。

康子も百々子も八郎が好きになってしまい、美枝子は康子を自由に結婚させてやりたくて八郎と一緒になれるように、房江は専務の娘の百々子と八郎が結婚すれば旦那の出世になるとして当人同士を乗り越えて話を進めていくのですが・・・。
三角関係の行方と伊東と西川の出世話が絡んでいきます。

社宅ということもあり近所付き合いは大事で、隣同士で井戸を共用している環境からもそれがキーになっています。先に西川家が電気洗濯機を月賦で購入すると、房江は見栄をはります。また社宅内は噂話ですぐに持ちきりになりますし、それを仕切る者がでてきます。
これらは普遍の人の性でそれを面白おかしく描かれていますが、当時の近所付き合いが盛んという世相もしっかりと表現されています。

奥さん同士がいがみ合ってしまう展開でも、旦那二人は割りと冷静なのも、演出でもありますが、これも良くみる光景で、だけど、現代からみると全体的に鷹揚な雰囲気がこんなところでも窺えます。

笑いが絶えない映画なのですがキャラクター設定が良いことも後押ししています。
二人の世話焼き奥さんと社宅の仕切り奥さん、そしてちょっと尻に引かれているような男達、八郎は正義感があって自由奔放だけど天然キャラ、美枝子(と康子)の父は頑固で江戸っ子、その奉公人達もユーモアがある(番頭の名前は「徳」で丁稚の名前が「定」、落語好きにはたまりません)、百々子は活発、康子は思いやりがある控えめの女性。
それらのキャラが上手くかみ合います。

目先の欲から、房子が嘘を付き、美枝子の手前伊東が嘘を付いてしまい、百々子と康子が傷つきますが、その事件も上手く回収します。(ちょっと皆が良い人過ぎるきらいはありますが、この映画の雰囲気にはあっています)
伊東と西川に出世競争がご破算になり、代わりに社宅の仕切り役が世代を変えるというオチも上手かったです。

とにかく私としては、始終楽しめる作品で、贔屓目かもしれませんが文句なしの映画でした。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時: 2014年08月13日 07:27