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ブログ 今日のいもたつ

たそがれ酒場 1955日 内田吐夢

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さすが内田吐夢監督、という秀作です。

戦後復興中の東京にある酒場、酒場といっても、飯も出すし、中二階には舞台もある。そこでは演歌、民謡、歌謡曲からクラッシックまでの場末の店には不似合いなほどの本格的な演奏があり、クライマックスではストリップショーがある、にぎやかな店です。
この酒場からカメラは出ることはない、一晩の群像劇です。

もちろん悲喜こもごもの人間模様です。

エピソードも役者も多く、でも散漫にはならず、ユーモアも交えた抜群の匙加減の演出です。
役者陣もそれに応える芸達者ぶり。面白かったです。


偶然出くわした戦時の上官と部下(東野英治郎・加東大介)、あの頃を懐かしみ、今を憂います。
それとは正反対に明日を夢見る若者達。
また、議論を交わす学生達。
店のアイドルユキ(野添ひとみ)を巡って仲違いするヤクザ者達(丹波哲郎・宇津井健 他)。
愛人問題で揉める夫婦。
客のおこぼれを拾うコバンザメ(多々良純)等々の雑多の中でメインの物語が進みます。

店の常連で先生と呼ばれているパチプロの梅野(小杉勇)が物語のリード役、
店にはプロ並みの歌手健一(宮原卓也)とその先生の江藤(小野比呂志)がいますが、江藤は一流の音楽家だったのが、なにか事件があって身を潜めなければならない様子で、今は才能ある健一を育てるのが生き甲斐です。

その晩、日本有数の歌劇団の親方の中小路(高田稔)が客として来たことを梅野は見逃しません。クラッシックをリクエストして、健一が中小路の目に留まるようにします。作戦成功で歌劇団に誘われる健一ですが、それを許さない江藤、何故なら江藤が身を潜める原因になったのが中小路だったからです。

クラッシックバレエを諦めなければならなかったダンサーのエミー(津島恵子)は健一まで埋もれてしまうことに我慢ができません。
そして、全てを知っている梅野の説得で江藤は健一を送り出すことにして幕です。

それ以外にも、エミーと昔の男の逆恨みでの騒動や、宇津井健と駆け落ちするユキが、家族を想って諦めるエピソードがあります。
ユキは戦争で父親を失い、母と妹を一人で面倒見ていますが、一杯一杯の生活、そこへ母が倒れたことから月給の前借を頼むのですが、店には断られ、梅野が肩代わりすることになります。梅野が店から借りるのですが、返済期限は今晩の店仕舞いまで、どうして返済するかと気が気でないところ、梅野の過去を知る新聞記者が登場、彼の似顔絵を描いてユキのひと月分の給料を稼ぎます。
梅野は、戦時高揚のための絵を描いていた有名な画家で、多くの若者を戦地に送った片棒を担いだことで筆が握られなくなったのでした。


まだ戦争の傷痕が残る時代、でも活気に溢れている時代、その中にいる様々な人たちを映します。
心が癒されていない者、貧しさから抜け出せない者、昔が自分にとっての栄光だった者、希望を持つ若者、ドロップアウトする若者、次の世代の橋渡しをする人達。
一晩の一室で、社会には老若男女がいていつも交錯していて、また、時は確実に流れ、人は次世代に次への時代を託すものというメッセージを感じます。
見事に纏め上げられていました。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時: 2016年01月02日 10:25