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いもたつLife

【SPAC演劇】人形の家 宮城總 演出

同じイプセン原作の「ペールギュント」のspac演劇(宮城總演出)の舞台は、オセロ盤を用いていますが、この「人形の家」でもその側はそのままに、それをパズルとしています。
この劇は1935年の日本に置き換えられていますから、パズルのピースは当時の家庭内の家具等になっています。
それが少しずつ壊れていく、それはノーラ自身であり、ノーラとヘルメルとの関係であり、この家庭でもあります。

ヘルメルは最低の男です。自分の保身に全精力を傾けているような男です。ノーラへの愛し方も、経済的に十分なら、優しければ、社会的な地位があれば、それで必要十分条件が満たされてるはずだろ、という愛し方であり、ヘルメルはそれに何の疑いも持っていません。
ノーラもそれが愛され方の当たり前で自分は幸せと心から満足していました。
この劇で繰り広げられる3日がなければです。

ノーラは自分自身の存在そのものが尊重されていなかったことに気付いてしまった。ヘルメルの愛し方はノーラそのものではなく、ノーラが自分の保護の下で自分の思う通りのことをそつなくこなす、そして自分を含めた子供たちの良き妻・母であることに対して、これ上ない女性である、愛する対象であるとしていたのです。
二人共疑うことがない植え付けられた価値観で生きてきたのですが、ノーラだけはそれが幻想だったことを身に染みてしまったのです。ノーラは家を出てこれから苦難をたくさん迎えるでしょう。でもなぜこの世に授かったかは揺るがないのではないでしょうか。

でもこれを観劇して一番怖かったのは、ヘウrメルの最低の行為に私が共感できてしまうこと、ヘルメルの気持ちが解ってしまうことです。最愛の妻ですらその存在を愛おしく想っていないのはヘルメルと変わらないではないかと愕然としました。
植え付けられた価値観なんか糞喰らえを常に嘯いていた己はなんだったのか、ぐうの音もでませんでした。

追伸
2/19は「雨水」です。二十四節気更新しました。
ご興味がある方は、干し芋のタツマのトップページからどうぞ。
干し芋のタツマ
二十四節気「雨水」の直接ページはこちら
雨水

【いもたつLife】

日時:2023年02月19日 13:47

【SPAC演劇】リチャード二世 寺内亜矢子 演出

観劇後のアフタートークで、司会の方が「格式が高いと思われているシェークスピアを、翻案しないで、当時のままを再現しているのにも関わらず、ちゃんと伝わっている」と正確ではありませんが、話されていました。
私も同感で、そのために様々な工夫がなされていました。

「リチャード2せ」は登場人物も多く2時間20分の上演時間でも端折らなければならない多くの情報を伝えることが必須です。
そのために、舞台と観客をつなぐ案内役(永井健二さん)を置きました。またキャラクター作りも当時の貴族を当てながら親しみやすくなっています。
舞台も観客にその場面に囚われさせないシンプルでかつ機能的で、観客がそれぞれの幕にやはり入りやすくなっています。そして時折ユーモラスに振舞う。

劇自体はとても辛辣です。
リチャード王は蓮力者としての嫌な部分、ダメな部分を晒します。その王にとって変るボリングブルックもりリチャード王を反面教師としているわけではない、国のトップとしてどうなのか、という人物です。
でもそれが真実で、普遍です。
歴史にはそんな為政者ばかりではありませんが、それは、その環境に左右されている要素が大きいと、またまた感じてしまいます。

それはさておきこの“リチャード2世” 美術、照明、演技どれをとっても、とても完成度が高いSPACらしい作品でした。

印象に残った一つは“雨漏りバケツ”です。劇自体の不安な政情や人物たちの隠れた思惑の不安定さの象徴として観ていたのですが、それとは別に演出の寺内さんは、「この劇場で実際に雨漏りがあったのをヒントに、舞台と舞台外部をつなぐ役割(劇場内の舞台外にその場所に同じバケツがありました)を担わせたかった」とおっしゃっていました。
それには気づきませんでしたが、そのバケツ、とても良い効果だと思いました。
あるだけで不協和なのです。
他の気になることを消し去って劇に入り込む後押しでした。

【いもたつLife】

日時:2023年01月30日 11:06

【歌舞伎座】壽 新春大歌舞伎 通し狂言十六夜清心(いざよいせいしん)

世話物の歌舞伎らしく、恋仲の二人の主役の心中から始まり、紆余曲折あり、ラストはあっと驚きます。
世の中広いようで狭い、そして縁あるモノが絡み合うのは歌舞伎ではおなじみですが、実際にもあることです。
「悪いこたぁできねぇ」の台詞通り、歌舞伎の登場人物よりもはるかに凡人の自分は身に染みる言葉です。

二幕構成で場が5つあり、その舞台を高速で立ち上がらせるのはいつもと同様です。それを観ていると、筋を追いつつどこの場面を強調するかの演出効果を狙い、それにピッタリの舞台を準備する、そのどこを狙うかがしっかりと考えられて、脚本、演技が練られていることが、段々と解ってくるとますます歌舞伎は面白くなります。
そして様式美も解ってくると尚更でしょう。

今年も足を運びたいです。

【いもたつLife】

日時:2023年01月11日 15:22

初日に観劇でした。

初日に観劇でした。
講演前に舞台挨拶あり、その後、大神楽あり、幕間には獅子舞がありです。
本講演も、楽しい遠山の金さん、最後の大詰めは出演者揃っての桜の前での舞踊、日本のお正月を満喫できる歌舞伎でした。
良い年を迎えられました。

【いもたつLife】

日時:2023年01月05日 14:58

【SPAC演劇】守銭奴 あるいは嘘の学校 ジャン・ランベール=ヴィルド 演出

主人公のアルパゴンは筋金入りの守銭奴。それに加えて息子と恋人を取り合う父親。劇はアルパゴンと彼の周りの彼に振り回される輩たちの痛快な喜劇です。

もう年老いてきているアルパゴンが金に執着するその気持ちは解らないでもないですが、それが目に余ります。そして恋人を巡ってなぜ息子と確執するのか?
そのどの行為もあまりにも大人げない。
死への不安でカネが頼りなのか、若い妻を娶ることが安寧をもたらすからなのか、そのアルパゴンの心は大きな喪失の埋め合わせなのでしょう。それは亡くした妻の存在ではないでしょうか。
妻は親とも子とも違った特別な存在です。その喪失はどんなモノでも埋め合わせができない、それに抗っているアルパゴンの姿は愛おしくもみえました。

それはおいておいて、このアルパゴンと出てくる輩たちの滑稽さがご機嫌の喜劇に仕上がってました。
演出のジャン・ランベール=ヴィルド氏も言及していましたが、SPACの俳優はじめ裏方のみんなが、この劇の演出の意図を十二分に理解し具現化しているとのこと。
納得できました。

【いもたつLife】

日時:2022年12月22日 11:33

【歌舞伎&落語 コラボ忠臣蔵】国立劇場

落語「殿中でござる」「中村仲蔵」春風亭小朝
歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」
五段目 山崎街道鉄砲渡しの場 二つ玉の場
六段目 与市兵衛内助勘平腹切の場

小朝師匠はぜひとも観たかったので歌舞伎とのコラボは渡りに船でした。
昔からの芸風そのままで、少し早口のリズムに乗っての語りはを十二分に楽しめました。
「殿中でござる」で「中村仲蔵」につなげ、「中村仲蔵」は後半の歌舞伎につながります。その役割をわきまえていて、かつ、沸かせる落語にもなっていました。
落語の合間の神楽も見事でした。

そして勘平が主役の忠臣蔵五段目、六段目です。
落語「蛙茶番」や「四段目」の枕に素人芝居で皆が皆“勘平”をやりたがるとありますが、今回それが腑に落ちました。
命をかけても仇討に名を連ねる、そのために必死の行為が裏目に出ても悔いない、それを家族も支える。
赤穂の討ち入りが当時の人々の心をとらえたのを後から窺い知るに十分になるのは仮名手本忠臣蔵を観ると説得させられるのですが、この勘平の脚色もそれが反映されています。
そして歌舞伎がこの場面を我こそはと演じるからこそ、いつの世にも魅力を発しているのを感じました。

【いもたつLife】

日時:2022年11月29日 10:54

彼女のいない部屋 2021仏 マチュー・アマルリック

映画はクラリス(ヴィッキー・クリープス)とその家族に何かが起きたことを、クラリスの目線で粛々と語られます。
このクラリス目線というのが味噌で、過去と現在の現実とクラリスの多分想像の二つの軸が交錯して示されます。
現実もクラリスが今感じている現在や彼女が振り返りたい過去の事実を映しているので、もう一つの軸の彼女の想像と遠く離れていない感触の映像です。

この家族に何が起きたのかが段々と判明していくそれまでの映像クラリスの心情であったことが痛感していきます。
そしてだからこのような構成をとったことも納得していくことになります。

造り手がクラシスの途方もない喪失感をどうすれば伝わるかを伝えようとして出来上がつています。
斬新な伝え方です。

【いもたつLife】

日時:2022年11月20日 15:57

【義経千本桜 四段目】国立劇場

道行初音旅 清元連中・竹本連中、河連法眼館の場

この段は、忠信と忠信に化けたキツネの二役をどう演じるかがキーということで、その通りで、尾上菊之助がみせてくれます。
この通しの「義経千本桜」は尾上菊之助が、二段目の知盛と忠信、三段目のいがみの権太を演じるのが目玉ですが、この四段目は他にもましての見事さでした。

この段は舞踊で始まりますが、これが活きている演出で、これまでとは違う歌舞伎の凄さと面白さを堪能しました。

同じ物語を何度も観たくなるのは、物語自体の面白さはもとより、歌舞伎も文楽も何百年も培われてきた演出方法や名演技を既習し超えようとするからで、深さは半端ではないことを実感します。

【いもたつLife】

日時:2022年10月28日 16:14

【義経千本桜 三段目】国立劇場

下市村椎の木の場、下市村竹藪小金吾討死の場、下市村釣瓶鮓屋の場

つくづく凝っている脚本です。
この段の主役は“いがみの権太”で、権太はその通り名の通りほとほと“いや”な輩ですが、段の終わりには様変わりで悲劇の忠心者に変わります。しかも権太の意を汲む妻子までが命を投げ捨てるのです。
その権太をどう観客が捉えるかになりますし、演者はどう役作りするかになります。

その権太の周りを固める人物像も、話の進め方も、本当によくできている物語で、これは誰がどうやるかと、どこに焦点を絞るかで見ごたえと見どころが変わってきますし、それが歌舞伎や文楽の楽しみであることが、うっすらと解ってきました。

【いもたつLife】

日時:2022年10月27日 16:13

【義経千本桜 二段目】国立劇場

伏見稲荷鳥居前の場、渡海屋の場、大物浦の場

静御前との別れ、弁慶と忠信との主従のやりとりを見せておいて、場が変わり、知盛との対決に移ります。その序盤は、義経勢と知盛勢との知略があり、そこに安徳帝の生死が関わってきます。盛り上げておいて義経たちと知盛との決着になります。

人気演目らしく、とてもよく出来ています。伝えられているわけです。
この段では数々の歌舞伎役者が知盛を演じてきて、凌ぎを削ってきたことが伺えます。

今回国立劇場で義経千本桜が通しで観られるということで楽しみにしてきましたが、この二段目、まずは堪能できました。

【いもたつLife】

日時:2022年10月26日 16:12