いもたつLife
PERFECT DAYS 2023日/独 ヴィム・ヴェンダース

主人公の平山(役所浩司)にあまりにも共感します。そして、その日常は私が描こうとしているモノにとても近いです。
早朝、向かいの寺の掃き掃除の音で目覚めて、極めて几帳面に身なりを整えて仕事にいく平山、その仕事は誰もやりたがらない公共トイレの掃除です。それを一生懸命に磨く平山。
昼休みもいつも同じ、公園にいき木漏れ日を撮影、時に苗木があるとそれを持ち帰り大事に育てます。銭湯が開く時刻にいき一番風呂を浴び、昭和の頃から続く駅地下の一杯飲み屋で酒と食事も毎日のこと。帰宅すると寝るまで読書を楽しみます。もう一つ平山の趣味は古い曲を当時のカセットテープで楽しむことです。
休日は部屋の掃除と洗濯、映した写真の現像、古本屋で次に読む本を選び、歌が上手いママ(石川さゆり)の店の常連客で、いつもより少し贅沢な酒盛りをします。
淡々とした毎日ですが、時に波風が起こります。同僚(柄本時生)のイザコザに巻き込まれたり、トイレで幼児の迷子に出会ったり、同じくトイレで見知らぬ人と五目並べをしたり、そしてもっと大きなイザコザは、何年もあったことがない姪っ子ニコ(中野有紗)が家出してきて数日一緒に過ごすのです。(ここで彼の過去が垣間見れます、裕福な家庭で育ち、親と折り合いがつかなく、底辺に近い今の仕事と生活は、彼が望んだことだと)
平山は他人と程よい距離を置きます。でもその人柄の良さは滲み出ていますから、皆から好かれます。(先頭の番台や常連客、居酒屋の店主、古本屋の店主、歌が上手いママ、よく合うホームレス(田中泯)(言葉を交わさないが昼休みの公園のOLとも心が通じている)等々)
平山は損得ばかりを追いません。トイレ掃除もそこまでやるかという気持ちが込められています。充実した日常を過ごすことで充実を得ることに満足をしています。
けれどこれがいつまでも続くとも思っていません。でも続けることに精進します。
ほとんど無口な平山が、ニコの前では彼なりに饒舌になります。そしてニコを迎えに来た何年もあっていない妹(麻生祐未)に親の死が近いことを告げられると、合いにはいかないと頑なですが涙を流します。平山も聖人君主ではなく人の子なのです。
ごくごく限られた人だけと触れ合い、親族ともほぼ交信しない、けれど、これまで生きてきた情があります。この生き様にもすごく共感します。
物語はお伽話のようでもあります。それは映画で語りたいことを優先したからです。とても良い映画でした。
そして、カメラ、ロケーション、キャスティングに唸らされました。
【いもたつLife】
【猿若祭二月大歌舞伎】

*新版歌祭文 野崎村
*釣女
*籠釣瓶花街酔醒
世話物、狂言、世話物と名作の間に一息つくプログラムでした。
釣女は落語好きにはたまりません。大笑いと苦笑いです。
野崎村は余韻溢れる演出でした。お光の純真な心の清らかさには大きな代償があり、それが久松とお染に伝わるかは最後までわかりません。もちろん伝わってはいるのですが、そのお光の気持ちが適うかは別です。そして、久松、お染、お光、人の心はどうしようもない、その心のままでは不幸になるけれど、他の道はあり得ないのです。性というか定めです。
その人の性を業とすると、籠釣瓶花街酔醒の次郎左衛門は花魁の八つ橋に翻弄されたとはいえ業そのものに支配されてしまいました。それだけ八つ橋を想っていたし、これまでの人生すべてを八つ橋にかけて幸せを手にできる一歩手前での八つ橋からの仕打ちは、次郎左衛門にとって死を掛けるほどの仕打ちだった、そこにたまたま名刀“籠釣瓶”が次郎左衛門の下にあったからの悲劇です。もし籠鶴瓶がなかったら起きなかった悲劇であり、人には宿命があるのではないかと思わずにはいられません。
三演目ともに堪能しました。
【いもたつLife】
シネマ歌舞伎 唐茄子屋 不思議国之若旦那 演出:宮藤官九郎

てんぷくトリオを想い出しました。
それを芸達者の歌舞伎役者がやるものですから面白くない訳がありません。
落語「唐茄子屋政談」を基に、大門ならぬ小門をくぐると第二吉原に迷い込むというファンタジーが組み込まれ、「大工調べ」が味付けに入れられています。
テンポよく、舞台も添えに合わせて転換されます。面白かったです。
【いもたつLife】
【新国立劇場新春歌舞伎2024年】

*梶原平三誉石切 一幕 鶴ヶ岡八幡社頭の場
*芦屋道満大内鑑 一幕三場 -葛の葉-
*勢獅子門出初台 常磐津連中
国立劇場から新国立劇場に移っての新春歌舞伎で、舞台も含めてロビーや待合室も、国立劇所の歌舞伎(古典芸能)一色とはかなり趣きが違います。仕方ないことですが、新しい国立劇場はどんな仕様なのかということも頭をかすめました。
演目は、時代物、人情物、舞踊とどれも歌舞伎らしい3演目でした。
*梶原平三誉石切 一幕 鶴ヶ岡八幡社頭の場
格好良い景時が名刀を目利きし試す。その中に武士らしい振る舞い、人を思いやる心を偲ばせます。王道です。
*芦屋道満大内鑑 一幕三場 -葛の葉-
狐が人に化けるというよりも人になりきれない話です。落語や昔話にもよくでてくる様態です。
人と獣を比較して、人の情け深さを問うているように今回強く感じました。獣の人情といいますか、それを通して人としての生き方を考えます。
主演の梅枝さんの「早替り」や「曲書き」ももちろん見応えありでした。
*勢獅子門出初台 常磐津連中
お正月ならではの演目です。題名に“初台”もついています。これからの歌舞伎の担い手のお披露目も兼ねていました。
花道がないのは少し寂しいですが、初台(新国立劇場)でもまた観劇したいです。
【いもたつLife】
【未分類】
【spac演劇 バラの騎士 宮城總・寺内亜矢子演出】

【spac演劇 ばらの騎士 宮城總・寺内亜矢子演出】
名作オペラ「ばらの騎士」を一旦、オペラの魂の音楽を抜いて、そのテキスト部分を主にして演劇として再構成、そしてオペラとは違う音楽を、劇に合わせて付与したという、野心作です。アフタートークではそのあたりの演出家お二人の意気込みと、名作オペラの音楽部分を塗り替える作曲家としての苦悩とやりがいを作曲した根本卓也さんのお話を伺えました。
改めて、たくさんの意図が盛り込まれていたことを知り、千秋楽にチケットをとってあるので、もう一度観劇できることが、大変に楽しみになりました。
予想もできなかった意図とは離れて、劇の感想は、大好きな川島雄三監督の喜劇のようでした。
主人公たちが大真面目で人生を掛けた真剣勝負をしている最中、外野ではドタバタ喜劇です。「貸間あり」を彷彿させます。そのドタバタの最中の音楽もどことなく川島喜劇を連想されたから余計に川島監督の喜劇が思い浮かびました。
貴族の称号を金で買ったパンニナル、その金目当ての貴族オックス男爵の金目当て、女目当ての嫌らしさ、それを諫めるオクタヴィアンだって元帥夫人と不倫しているし、パンニナルの娘ゾフィーを愛するのもどうかと。また年上の元帥夫人は愛するオクタヴィアンを思いやりますし、パンニナルはゾフィーのためを思い、金で買った貴族の称号を確固たるものとするために婚約者としてオックス男爵を選びます。
あからさまな人の嫌らしさ、嫌らしいけれど愛する者のために湧き出る心、どちらも人間らしさが描かれます。これも川島喜劇に通じます。
四幕に分かれていて、一から三幕は舞台が変わる幕間にナビゲートがあります。ここでももちろん楽しませてくれてSPACらしいし、音楽もSPACでは初めての根本さんの音楽ですが、SPAC劇とマッチしていました。
楽しくて深い人間劇で、千秋楽はもっと汲み取りたいです。
【いもたつLife】
パウ・パトロール・ザ・マイティ・ムービー 2023米 カル・ブランカー

孫と映画鑑賞が長い休みの日課になることなんて、思っていなかった。自分の想像力のなさを痛感です。
それはさておき、新しい隊員が登場、それに加えてパウ・パトロールジュニアが出来てと、造り手も大変です。
そして今回はマイティパワーで新しい能力が加わりました。これを機に能力インフレにならないことが気になります。
映画は面白かったです。
【いもたつLife】
君たちはどう生きるか 2023日 宮崎駿

主人公の眞人が亡き母を探しにいきます。正確には継母を探しに行くことが母探しになったのですが、そして少女の頃の母に出会います。
亡き母は事故で死ぬのですが、少女の母にそれを回避するように懇願しますが、母は否定します。眞人は母を喪ったままで現実に戻ります。
眞人を通して自分の運命を変えるのは容易でない、世の中は非情だし無常だという匂いを感じます。また母が宿命の死を回避する道を選ぶと、眞人自体の存在がなくなるから、母は違う道を選んだのではなく、選べなかったのではないでしょうか。
結局、眞人は回りを変えることはできなかったけれど、生長したというベタな映画でもあります。
そういう理屈は置いておいて、50年前の子供の頃にみた「空飛ぶ幽霊船」でワクワクした、そんな気持ちを想い出した嬉しい映画でした。
【いもたつLife】
【spac演劇】お艶の恋 石神夏希 演出

演劇でも映画でも楽しみの一つに、その演出家がどのように料理するかがあります。特に過去に何度も上演されている題材では観客はそれが楽しみで、でも演出家はそれはとても悩ましいことでしょう。
谷崎潤一郎の「お艶殺し」は、江戸時代が舞台、しかも冬です。お艶と新助の駆け落ちから、お艶の殺害へと至る話です。
これが今回は・・・。
舞台は熱帯雨林のとある島です。そこでお艶をはじめとした登場人物の魂たちが、「お艶殺し」を演じます。
その登場人物たちは、フラメンコを想わせる衣装と振付、そして何故か“蓄音機”が置かれていて、そこから流れる音楽は、この原作が執筆されたころの音源が再現されています。
演者はそんなごった煮のような中で、恋物語と悍ましい殺害の劇を演じます。
繰り返しますが舞台は熱帯雨林です。そしてその再現された(多分紙で出来ている)南国の林が素晴らしい舞台セットです。
目をつぶっていると、「お艶殺し」目を開けていると「spac演劇 お艶の恋」でした。
【いもたつLife】
ほろ酔いばなし 酒の日本文化史 横田弘幸 著

古代から近代まで、日本酒がその時代のどんな存在だったか、嗜好品として、経済や税制に置いて、一話完結でリズムよく描かれています。そしてどんな品質だったかもです。
日本酒大好きな者として、とても興味深い内容で面白かったです。
想像していたよりもかなり早い段階で、かなり高品質な日本酒ができていたというのが印象的でした。
元々日本酒は日本文化の中でも重要なポジションにいるというのが自論で、伝統的に造られている日本酒を誇っていましたが、その考えも後押しされました。
【いもたつLife】
ラブカは静かに弓を持つ 安壇美緒 著

この本を題材にした、著者の安壇さんを交えたチェロ演奏とトークのイベントに参加して、この本も手に取りました。
そのイベントでの横坂源さんのチェロ演奏が素晴らしく、読み進めていて、チェロ場面では音が響き、主人公の橘の心情、特に苦しむ展開では優しいチェロの音を聴いているようでした。
物語はスリルがあり、サスペンス要素もある、そして読みやすくて面白かったです。
大人の都合の社会的なテーマ、著作権をめぐる顛末に、映画や音楽を絡めて、また主人公の橘のトラウマからの脱却も織り交ぜてながらも、とても上手く纏めあげています。
孤独を決め込んでいた橘を通して、この世の中棄てたもんじゃないというのも共感が持てました。
【いもたつLife】