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【spac演劇】弱法師 石神夏希 演出

三島由紀夫が翻案した能の演目「弱法師」を原作を、spacが解釈した劇です。
戦災で盲目になり両親と離れてしまい物乞いをしていた5歳の俊徳は、川島夫妻に拾われて何不自由なく育てられます。15年後、産みの親の高安夫妻が現れ、家庭裁判所で調停が行われるという設定です。
俊徳は王様のようにふるまいます。それに対して奴隷のように従う川島夫妻、怪訝そうだった高安夫妻は俊徳に気に入られるために、同じように俊徳の言葉の奴隷になります。
調停役の級子だけはこのやりとりを冷静に見つめます。

台詞は三島由紀夫にみえていた世界でしょうけれど、今の社会にも通じます。でも今の社会は当時よりも見えにくくされていて、三島(俊徳)の声を用心深く今の情勢に置き換える作業をすると、ぞっとする社会の病を感じます。
それは置いておいて、劇はそんなやりとりを二度繰り返します。
その中で注目は、俊徳は華奢で若い女性、級子は大柄で威圧的な男性だったのが、二度目は逆になります。対照的な役者が入れ替わるのです。
一度目の怖さが増幅されます。同時に、俊徳の心の空虚や迷いがその深刻さが増します。そして級子の役割、論理的な傍観者であり病んでいるモノと対峙しなくてはならない社会で不可欠な役割の重要さもひしひしと伝わってきます。

この劇は俊徳の魂は救済されるか、どこに行くのかを問う、死を考る中で避けて通れない、でもあまり考えたくないテーマを投げかけていると解説がありました。確かにその通りですが、その迷ってしまう魂は、三島由紀夫ならば戦争体験と、安保闘争が背景にあったように、そこから時代を進めた現在の混迷、繰り返しますが、本当は一触即発で戦争が起こってもおかしくないのに、社会の側は問題ないと取り繕って、解りにくくいている現代の情勢が、実は私たちを不安にさせていて、それを問題提起しているということが込められていると非常に感じる観劇でした。

【いもたつLife】

日時: 2025年10月21日 10:13