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ブログ 今日のいもたつ

鑑定士と顔のない依頼人 2013伊 ジュゼッペ・トルナトーレ

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偏屈な年配の男にとって極めて残酷な教訓映画です。
金持ちという部分だけは違いますが、主人公の姿は将来の自分と重なりますから
なおさらです。

主人公は超一流の鑑定士、仕事も一流、
美術品に対してと、その真贋に対して自らの信念を持ち合わせています。
人付き合いはほとんどなしで、付き合いは実は悪さで絵画を蒐集しているの相棒だけ。
その絵画は価値ある美女像ばかりですが、
本人は生身の女性を愛することなく老いた男です。

その主人公の下に、ある時変わった依頼人からの鑑定の仕事が舞いこみます。
依頼人は27歳位の女性です。
何故か彼女は仕事を依頼しても姿をみせません。
そんなきっかけから主人公は彼女に惹かれていきます。
そして、人生の絶頂を迎えるのですが、というお話です。

途中で結末は見えてきますが、その観せ方の方が重要で、
それは効果的な演出、展開です。
主人公の台詞をはじめ、彼の仕事ぶりと彼女に溺れる様子や、
外堀を埋めるような伏線とその回収が上手くできているので、
嫌な映画ですが、良くできた映画です。

キーになる人物が機械修理工で、機械仕掛けをディテールとして、
全体を匂わせるところも良い演出です。
完璧に見える主人公が壊れる様と、壊れて復元されるアンドロイドが出てきたり、
単なる歯車を見せておいて、
ラストにはその歯車に覆われる主人公の姿を引いたカメラを写してみせたり、
真贋に対する台詞と纏わって、彼女を二人登場させたりと、
観客に考える余地を残している映画です。

主人公は迷ったのか惑わされたのか、
何十年と続けていた自分らしく生きる生き方を貫くことの路線変更をしました。
そこから転落が起こるわけですが、
人はいつも自分らしく生きることに不安を持っているものです。
そこを突かれたのです。
だからとてもキツイ映画でした。

一家言ある人物でさえ、やっぱり人の子ですし、
貫くことの困難を感じますし、
主人公の冒頭の鮮やかなまでの仕事ぶりが脆いものだということは、
私達の人生の今の姿なのでしょう。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時: 2014年04月20日 08:57