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【SPAC演劇】ふたりの女 宮城聰演出 唐十郎作

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主人公の光一が、自分が作った自分を囲う檻を壊し、解き放つことができたのが、「ふたりの女」で、誰もが気づかずに自分を縛ってしまっている呪縛があることを暗示させます。

精神病院の医者である光一には、妊娠している婚約者アオイがいます。光一が海辺で、砂浜にラブレターを書きながらアオイへの想いを吐露するところから劇は始まります。
病院には、六条というアオイにそっくりな患者がいます。
六条は何故か光一を愛しています。光一も六条のことが気にかかります。そして、六条から鍵を受け取ります。その鍵は、六条が退院した折に光一が迎えに来るサンドバギーの鍵だと六条は言います。

場面は変わり富士スピードウェイで、光一とアオイは観戦しています。光一はツワリで気分が悪いアオイのために夏みかんを、弟に取りに行かせます。そこで弟は六条とのクルマのトラブルに巻き込まれます。そこに光一が現れて六条と再会、六条は今、化粧品のセールスをしていると言い、東京で仕事をしたいからアパートを探して欲しいと光一に依頼します。光一は不動産屋の紹介くらいなら出来ると渋々請け負い、そのお礼に六条は化粧品を光一に渡します。

アオイは、光一から化粧品を受け取るとそれを使うのですが、それは化粧品ではなく髪油でした。それを付けると匂いが強く取れないとアオイは言いながら、何故か段々と六条のようになったり、アオイに戻ったりします。
アオイの時のアオイは、髪油を誰から受け取ったかを、また、サンドバギーの鍵まで見つけて光一を詰問します。

次の場面は六条のアパートです。光一は眠っているアオイから取り上げた鍵を返しに来ました。そこに不動産屋が現れます。彼はアオイを玄関まで連れてきて、アオイは二人の会話を立ち聞きしていたと言います。慌てた光一がアオイを探すとアオイは崖の上にいます。
アオイは光一を罵りながら身を投げてしまいます。

最後は精神病院です。光一は院長に自分を六条がいた6号室に入れてくれと頼みます。しかしそれは叶いません。すると光一は海辺に出て、亡きアオイに向けての想いを吐露しながら砂にラブレターを書きます。
すると六条が現れます。光一は六条に、なぜアオイと仲違いさせるようなことをしたのかと詰問します。そして、終には六条を絞め殺してしまいます。

私は光一はずっと6号室の患者であったと解釈しました。だから六条は光一が作った幻影です。アオイが亡くなったのは自分に責任があり、それを責める存在として六条が生まれたのではないかと考えました。

この劇では他にも幻影を作り出す人物が登場します。
富士スピードウェイの駐車場係は、居るはずがない酔っ払いの老人を抱えて歩きます。また、彼は自分の中に潜む負の感情を常に外に向けて放っています。そして、彼の兄は入院患者で、自分が犯した罪を償うために指を切り落とすしかない、けれど指は10本しかないことを悩み、11本目の指を探しています。
これらは光一が抱いてしまった強迫観念を他の登場人物も持っているということです。

光一はアオイに赦されたいために六条を作り、六条と対話します。そして六条が自分の目の前から消えた時、光一はアオイを亡くした現実と向き合えるようになったのです。自責の念は消えたわけではありませんが、檻を作りその中でしか生きてはいけないと言い聞かせた自分を、その檻から出ても良いと決着を付けたのが最後のシーンだと思います。

舞台は野外で、舞台の先には天然林があります。
格子状に砂が盛られた観客目線のセットと、その上に廃木の柱が組まれた目線よりも高いセット、そして、天然林を活用した奥深く天に近いことをイメージさせる部分も使われていました。
登場人物が目線のセットと、それよりも高いセットにいることにより、その間柄の親密感や不信感を現していて、アオイが身を投げる時の天然林の部分は、異世界へと旅出つことを強調していました。
また、格子状に盛られた砂が、最初は整然としていながら、徐々に崩れていく様は光一の心情が揺れていくことを示唆し、また誰が砂を荒らすかでもその人物の立場を語るということも同時に表現していました。

ところどころに喜劇の要素を入れながら、事実笑いが起こるシーンが随所にありながら、己が己を縛っているのが人だという、かなり辛辣なことが語られてい演劇でした。

最後に、宮城さんのカメオ出演というサプライズがありました。カメオとは言えない位の長い出演でしかも演技も達者でした。とても楽しかったです。

【いもたつLife】

日時: 2015年05月07日 08:38