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ブログ 今日のいもたつ

サンダカン八番娼館 望郷 1974日 熊井啓

女性史研究家の三谷圭子(栗原小巻)は天草で“からゆきさん”のことを調べます。そこで出合ったのが明治末期から昭和初期まで実際に“からゆきさん”として身を売られた“おサキさん”(田中絹代、若い頃は高橋洋子)です。
最貧層として暮しているおサキさんの元で一緒の生活をすることで、語りたくない過去を聞きだす圭子です。その過去は壮絶なものでした。

外貨獲得のために奨励された“からゆきさん”ですが大日本帝国が国力を付けてくると、国の恥とされ、貧しいが故に騙されるかのごとく外地に出され、地獄のような日々を耐えていた彼女らは国にまで裏切られます。
おサキさんには一人息子がいますが、その過去により息子にも良くは思われていません。

そんなおサキさんですが、圭子に少しずつ心を開きます。圭子も仕事とはいえ、おサキさんを欺いているようで、でもこの事実を誰かが記録しなければという気持ちで取材を続けます。

田中絹代の語りと高橋洋子の姿で、その壮絶な人生が描写されます。痛々しくもあり、でもその事実は確かに日本の歴史です。

圭子は取材を終えるとおサキさんに別れを告げます。寂しいけれど圭子のことを想い量るおサキさんで、圭子の本心を聞いても圭子を責めることもなく、圭子を労わるおサキさんの姿は、どんなに辛い過去があっても人は人を思い遣る心をその人次第で育むことができることを教えてくれます。

人は肩書きではなく、目の前で自分とどんな気持ちで一緒にいるか、それがその人だと言っているようでした。

物語は、圭子がおサキさんを取材している3年前と、現在そのおサキさんが“からゆきさん”として暮していたマレーシアのサンダカン八番娼館の跡地が交錯します。
そしてラストは、その八番娼館にいた女性たちの共同墓地を見つけるところとなります。
お墓参りをする圭子がふと気づきます。
それは、そのお墓は皆日本の方角に背を向けているのです。彼女達の最期の国への抵抗です。とてもショックでした。でも題名は「望郷」なのです。

10代から30代までを演じ分けた高橋洋子さんも名演で、化粧や衣装も素晴らしく後押ししていました。

また個人的に、日本で最高の女優は高峰秀子さんだと常々思っているのですが、この作品の田中絹代さんはおサキさんそのものでした。これを観てしまうと、最高は田中絹代さんとなってしまうほどの名演でした。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時: 2018年07月31日 09:13