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ブログ 今日のいもたつ

俺の笛を聞け 2010ルーマニア/瑞/独 フロリン・セルバン

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譲れないことは絶対に譲らない。
その叫びが聞こえてくる映画です。

主人公は、18歳の少年院で更生しています。
模範生で、出所まで二週間です。
彼は10歳の時から(多分)当時2歳位の弟を育ててきました。
何故なら(父親は入院・健康ではないのでしょう)母親がいなかったからです。

ここはルーマニア、母親はイタリアに出稼ぎに行ったきりでした。
主人公に言わせれば、(多分)生活苦で男の元にいた。
そのために子供二人を捨てた。そんな母親です。

その母が、突然現れます。出所二週間前に、
そして、一週間後には弟をイタリアに連れていくことを決めます。
彼に譲れないないものが出来た瞬間でした。

模範生を守りながらそれを阻止しはじめます。
しかし塀の中では打つ手が限られます。
というよりもほとんど叶うことをすることが出来ません。
あせります。

時を同じくして、出所準備のためのカウンセリングが始まります。
そこで出会ったカウンセラーの女に恋をします。

時は無常に流れます。
打つ手なしに弟が連れ去られる日になります。
主人公は、本人も予期しないきっかけで、堰を切る行動を起こします。

恋する女を人質にして、少年院内で譲れないことを現実にする行動を起こします。

出所までどんなことがあっても、院内のイケスカナイ奴らから罵倒されても、
出所を成し遂げようとしていました。
でもどうしようもなく主人公を、
母が、仲間が、環境が追い詰めていき、暴発に至ります。

動機・原因は主人公が弟を失うことです。
でも暴発はそれでは起こりません。
引き金を引くきっかけが次々に起こったからです。
取り巻く環境が暴発を誘いました。

怖いことです。暴発したい気持ちが必要条件で、
環境が十分条件です。
人が暴発するこの構図で戦争も起こります。

主人公は滅茶苦茶苦悩します。『出所を目指す』のかを。
でもそれと、弟が連れ去られることの天秤にはかけられません。
弟を失うことは、出所できないことどころの騒ぎではないからです。
18年の人生の否定です。

だから、勝負に出ました。
結論を覚悟しての行動でした。
母と弟を引き離すことは、純粋に弟のためではありません。
これからも生きる自分のためです。

愛する女を人質にしたのは、
暴発の結果の代償を自らの望みにすり寄せるためです。

主人公のこの行為はとても切ないものです。

彼の地ルーマニアは遠くどんな国か、どんな歴史か、
体感できていません。けれどこの映画でわかることがあります。

幼い兄弟が自分達だけで食べていかなければならない世界、
母が息子達を捨てるを選ぶ世界、
まだ18歳なのに叶わぬ恋に遭遇すること、
出所しても希望を見出せないような雰囲気の世界、
それらを積み上げた物語でした。

これらのどれにも触れない、私が生きてきた環境が、
奇跡なのかもしれません。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時: 2012年11月15日 06:45