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ブログ 今日のいもたつ

【spac演劇】顕れ 宮城聰 演出

少し世界史をかじるだけで、今まで人々が多くの過ちを犯してきたことは枚挙に暇がありません。奴隷貿易もその中の一つで、多大なる負の歴史です。
その犠牲になったアフリカの、現地の、奴隷貿易に係わった人達を掘り起すというとてもデリケートな題材を扱う原作の演劇です。
アフリカを搾取した方をテーマにしたのではなく、不本意までも搾取に手を貸してしまった人の陳情がメインとなっています。では誰が陳情するのかというと、国を守るために仕方なく搾取側と友好関係を結んだ国の王や、自分(自国)の利益のために仲間を売った者、奴隷から抜け出すために背徳行為をした者等々の魂が創造主の神イニイエの命で、彼らに無残な一生とされてしまったウブントゥという彷徨える魂の前で語るのです。

劇はそこへ向けて、イニイエがいる世界の舞台設定の説明からはじまり、奴隷貿易によりウブントゥや罪人たち(皆魂です)がどうしているかという黄泉の国で繰り広げられます。

今私はこの現代の日本に生れて暮していますから平和で安住です。命や人権を平気で搾取される時代や場所にいないのですが、それは偶々でしかありません。
人が人を人として扱わない、強い者が弱者を食い物にすることは歴史では珍しくもなんともなく、その時と状況が揃えば、自分が搾取される側であったり、搾取する側で人でなしになっていても不思議ではないでしょう。
イニイエの前に立たされる立場でないのが偶々なのです。
誰もが鬼になるやもしれません。

それほどに人は悪の面があり、良心なんて脆いものです。人は善か悪かと問われれば究極は悪、切羽詰まれば悪魔に魂を売るのが人とも思えます。

この「顕れ」は、それでも人は善であることを謳いあげていました。
原作者も演出家も俳優達も裏方スタッフも全員でそれを信じて造りあげた芸術です。その想いが罪人の陳情が行われる後半からラストにかけてひしひしと伝わってきました。

spacの演劇はいつも唸らされるのですが、「顕れ」もそうで、とても感動し、みせてくれることに本当に感謝したくなるカーテンコールでした。

【いもたつLife】

日時: 2019年01月30日 09:12